昨日、十代目が一人で泣いていらっしゃった。
校舎の外、誰にも見つからないような光の当たらない場所で、小さく体を丸めていたため、泣き顔ははっきりとは見えなかったが。
俺が見つけたのだって偶然だった。
こんなところまで普通の人間は来ない。だから、ここを十代目は選んだのだろう。
「じ、十……」
最初は声を掛けようとした。だが、なんとなく声を掛けてはいけないような気がした。
一人で泣きたい時だからここにいらっしゃるのだろうから。
「ひ。ひっく」
十代目がすすり泣く声は少し離れたところにいた俺にも届いた。
音を立てずに降る雨みたいだと思った。
俺は結局のところ何も言わずにその場から去ることしかできなかった。
ああ、なんて無力なんだろう。
(昨日の雨が嘘みたいだ)
「十代目ッおはようございますっ」
今日、俺は昨日の様子が気になって、朝早くから十代目の家の前にいた。もう何回もあることだから、いまさら俺が行っても十代目は驚かれない。
「おはようっ獄寺君」
十代目はいつもと変わらなかった。笑顔が眩しい。
昨日とは別人のようにも見えた。
でも、
俺はそれは違うことを知っている。あれは間違いなく十代目の姿だったのだと。
泣いていた理由は知らない。それに、今後聞く気もなかった。それは十代目本人の問題だから俺にはどうしようもないのだ。
誰にも知られずに泣く十代目は確かに正しい。
人の上に立つ時、弱みを握られてはいけない。部下に不信感を抱かせてはいけない。
だからこれから先も十代目は人に知られないように泣くのだろう。
だが、沢田綱吉という人間はどうなるのか。
誰にも知られずに泣くことは、沢田綱吉の心に深い痛みをもたらすのではないだろうか。
「獄寺君、どうしたの?」
「なんでもありませんよ、十代目。学校、行きましょう」
「そう?具合悪いとかじゃないの?」
あぁ、沢田綱吉の心はこんなにも温かいのだ。
だから、せめて、あなたが泣く原因が少しでも(ほんの少しでも)減るように。
「大丈夫ですよ。早く行きましょう?」
end
俺はあなたの心を守れるように努力しましょう。
なんかすごく短くなった
BLOGタイトルで御題(2 昨日の雨が嘘みたいだ)
(06/12/23)
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