太陽の沈みも早くなってきたこの季節の変わり目。
綱吉は見事に風邪をひいてベッドの上の住人となっていた。

「うぅっ…ん」
久しぶりに熱を出した。
小さい頃はよくあったが、中学生になってからは初めてかもしれない。
この寝苦しさもすっかり忘れていた。
バタバタと階段を駆け上がる音が頭に響く。
バタンッと勢いよく開いたドアを見ると、喜色満面の骸の顔が目に入った。
「綱吉君、おかゆできましたよっ!」
「骸さん。…頭に響きます。もう少し静かにしてください」
「す、すみません」

綱吉はそうとう機嫌が悪かった。

  「・・・熱、上がるんですけど。」

時は一時間ほど前。
綱吉は玄関のチャイムの音で目を覚ました。

いつの間にか寝ていたらしい。11時を過ぎていた。
「誰だろ。母さんいないのに」
それどころか綱吉以外誰もいない。
熱の為にだるい体をベッドから起こして、階下に向かう。
玄関のドアを開けて綱吉は後悔した。
「…む、骸さん」
「はいっ。綱吉君、こんにちは」
さわやかな笑みを浮かべる骸。
まあ、それはいい。問題は別にあった。
「な、なんで骸さんがフリルだらけのファンシーなエプロンつけてここにいるんですか?」
そう、現在の骸の格好は黒曜中の制服+フリルエプロン。
「綱吉君の看病をしに来たんですよ」
語尾にハートマークでもついてそうな台詞に、綱吉の頭はさらに痛くなってくる。
「…熱、上がるんですけど」
「つ、綱吉君っ?大丈夫ですか!?」
取りあえず来てしまったものは仕方がない。と、骸を家に入れる。
途中、フラフラしている綱吉を心配そうに骸が見ていた。
部屋に着くと、そのままベッドへと綱吉は向かう。
立ったままの骸が顔を覗き込んでくる。

「なんで俺が風邪ひいたこと知ってるんですか?」
それを知っている中で隣町の黒曜までわざわざ教えに行くような人は思い付かない(面白がって教える可能性のあるリボーンは現在イタリアだ)。
「勿論、愛の力です!」
「……」
駄目だ。この人に話は通じない。
この部屋に盗聴器の類がないか元気になったら調べておこう。

「…じゃあ次の質問です。今、骸さんは黒曜中で授業を受けていなくちゃいけない筈なんですけど。学校はどうしたんですか?」
「綱吉君に比べたら学校の授業なんてっ!大丈夫です、欠席連絡はいれてきました」
「そう、ですか」
綱吉はじっと何かを考えるかのように一度目を閉じた。

「綱吉君?」
再び目を開いたとき、その目には明らかな怒りの色が浮かんでいた。
「骸さん。俺の為に自分のことをないがしろにしないでください。今すぐ帰って授業を受けてください」
「で、ですが、綱吉君。今この家には誰もいないのでしょう?こんな状態の君を一人にしてはおけませんよ」
そう言って、「台所借りますね」と、骸は慌てて部屋から出ていった。

そんなことがあって、冒頭の状況となったわけである。

「綱吉君。食べれますか?」
「…少しずつなら」
「薬飲む為にも、できるだけ食べて下さいね」
体を起こして、ゆっくりと食べる綱吉を骸は眺めていた。

「言い訳に聞こえるかもしれませんが、僕は自分をないがしろにしているつもりはないんですよ」
はい、薬です。と、水と風邪薬を差し出しながら、そう骸は言った。
「綱吉君が熱を出したと知ったとき、僕は頭の中が真っ白になってしまいました」
クフフと、骸は苦笑いをこぼす。
「無意識のうちに全部用意していたらしくて、気付いたら君の家の前に立っていたんですよね」
薬を受け取った綱吉を見てさらに笑みを深める。
泣きそうな顔にも、見えた。
「だから…、だから君を怒らせるつもりはなかったんですよ」
綱吉はゴクリと錠剤タイプの薬を飲み込んだ。
そして、
「寝てる間考えてたんですよ」と前置きする。
「ほんとに俺が怒っているのは、授業をほっぽりだしてきた骸さんに対してなのかなって。…違ったんです。俺は俺自身に怒っていたんですよ」
ひとつ、小さく息をついた。
「俺が熱出さなきゃ良かったんだ。少なくとも、一人でも大丈夫だと思って貰えるくらいだったら、骸さんに心配させることもなかったのにって」
「綱吉君…」
「だけどやっぱり、骸さんが来てくれて良かった。おいしいおかゆも作って貰えたし、何より一人の家は寂しすぎます」
ありがとうございます。
綱吉は微笑んで言った。
「骸さん、もう少しここにいてくれますか?」
骸の顔にも今度は苦笑ではない笑みが浮かぶ。
「勿論です。喜んで」
夕方になって綱吉の見舞いに知り合いが押し掛けてくるまでの数時間、2人は穏やかな時間を過ごした。

 end

ほのぼのです
長いです
綱吉君が特に偽物です
…押し掛けたメンバーの中にはリボーンとディーノさんも入っています
イタリアでその話を聞いて慌てて日本へ駆けつけました
(06/12/12)

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